相続により実家や土地を取得したものの、自分では使う予定がないため売却を検討する方は少なくありません。
相続した不動産を売却する際、多くの方がまず気にされるのは「譲渡所得税」や「住民税」です。
しかし、実際には税金だけではなく、国民健康保険料や後期高齢者医療保険などの社会保険料に影響する可能性があります。
特に個人事業主、年金生活者、後期高齢者医療制度に加入している方などは注意が必要です。
一方で、会社員や公務員の方など勤務先の健康保険や共済組合に加入している場合には、不動産の売却益が出たからといって、ただちに健康保険料があがるわけではありません。
つまり、相続した不動産を売却した場合に社会保険料が上がるかどうかは、どの健康保険制度に加入しているかによって大きく異なります。
この記事では、相続した不動産を売却した場合に、社会保険料へどのような影響があるのかをわかりやすく解説します。

ハイフィールド税理士法人 仙台事務所代表
東北税理士会 仙台北支部所属
税理士 高橋 祥太
これまで多数の相続税申告に携わってきた経験をもとに、お客様のお悩みに寄り添って対応いたします。
相続税についてお困りの方は当事務所の無料相談をご利用ください。
相続した不動産を売却しても必ず社会保険料が上がるわけではない

まず大前提として、相続した不動産を売却したからといって、必ず社会保険料が上がるわけではありません。
社会保険料に影響するかどうかを考えるうえで重要なのは次の2点です。
1つ目は、売却によって利益、つまり譲渡所得が発生しているかどうかです。
不動産を売却した金額そのものが所得になるわけではありません。
譲渡所得は簡単にいうと次のように計算します。
譲渡所得=売却代金-(取得費+譲渡費用)-特別控除
たとえば、3,000万円で不動産を売却したとしても、その不動産の取得費(購入金額)や売却時の仲介手数料などを差し引いた結果、利益が出ていなければ、原則として社会保険料への影響も限定的です。
譲渡所得について詳しくは次の記事で解説しています。

2つ目は、売却した人がどの社会保険制度に加入しているかです。
会社員が加入する健康保険、個人事業主などが加入する国民健康保険、75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度では、保険料の計算方法が異なります。
そのため、同じように相続した不動産を売却して利益が出たとしても、社会保険料への影響は人によって変わります。
加入している保険制度によって社会保険料への影響は異なる


相続した不動産を売却した場合に社会保険が上がるかどうかは、加入している保険制度によって異なります。
特に影響を受けやすいのは、国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している方です。
これらの制度では、前年の所得をもとに保険料が計算されるため、不動産売却によって譲渡所得が発生すると、翌年度の保険料が上がる可能性があります。
一方で、会社員や公務員など勤務先の健康保険や共済組合に加入している方は、給与をもとにした標準報酬月額で保険料が決まるため、不動産売却益が直接健康保険料に反映されることは一般的ではありません。
ただし、扶養に入っている家族が不動産を売却した場合には、税金上の扶養の要件に影響する可能性があるため注意が必要です。
(1)国民健康保険に加入している方は保険料が上がる可能性がある
相続した不動産の売却で特に注意が必要なのは、国民健康保険に加入している方です。
国民健康保険は、主に自営業者、個人事業主、フリーランス、退職後に会社の健康保険を抜けた方などが加入する制度です。
国民健康保険料は、一般的に前年の所得をもとに計算されます。
そのため、相続した不動産を売却して譲渡所得が発生すると、その所得が翌年度の国民健康保険料の計算に反映される可能性があります。
たとえば、普段の所得がそれほど多くない方でも、相続した土地を売却して大きな譲渡所得が出ると、その翌年の国民健康保険料が一時的に大きく上がることがあります。
ここで注意したいのは、売却代金そのものが保険料に影響するわけではないという点です。
影響するのは、売却代金から取得費や譲渡費用、特別控除などを差し引いた後の「譲渡所得」です。
つまり、3,000万円で不動産を売却したからといって、3,000万円全額が保険料計算の対象になるわけではありません。
国民健康保険料は自治体ごとに計算方法や料率が異なるため、実際にどの程度上がるかはお住まいの市区町村によって異なります。
ただし、相続した不動産の売却によって大きな譲渡所得が出る場合には、所得税や住民税だけでなく、翌年度の国民健康保険料も含めて資金計画を立てておくことが大切です。
(2)後期高齢者医療保険料にも影響する可能性がある
75歳以上の方は、原則として後期高齢者医療制度に加入します。
後期高齢者医療保険料も、基本的には前年の所得をもとに計算されます。
そのため、75歳以上の方が相続した不動産を売却して譲渡所得が発生した場合、翌年度の後期高齢者医療保険料が上がる可能性があります。
後期高齢者医療制度の保険料は、主に「均等割額」と「所得割額」で構成されています。
所得割額は所得に応じて計算されるため、不動産売却による譲渡所得があると、保険料が増える要因になります。
また、後期高齢者医療制度では、保険料だけでなく医療費の窓口負担割合にも影響する場合があります。
高齢の方が相続した不動産を売却する場合には、所得税や住民税のほか、後期高齢者医療保険料や医療費負担まで含めて検討する必要があります。
(3)会社員の健康保険料は原則として上がらない
一方で会社員や公務員など、勤務先の健康保険や共済組合に加入している方の場合、不動産の売却益が出たからといって原則、健康保険料が上がることはありません。
会社員の健康保険料や厚生年金保険料は主に給与をもとに決まる、標準報酬月額を基準に計算されます。
そのため、会社員や公務員本人の健康保険料や厚生年金保険料が不動産売却を理由にそのまま上がることは基本的にありません。
ただし、会社員や公務員の方の扶養に入っている家族が不動産を売却する場合には、少し注意が必要です。
ここでいう扶養には大きく分けて「社会保険上の扶養」と「税金上の扶養」があります。
まず、社会保険上の扶養については、相続した不動産を売却して一時的に譲渡所得が発生したとしても、原則としてそれだけで直ちに扶養から外れるとは限りません。
社会保険の扶養判定では、継続的な収入を基準に考えることが多く、不動産売却収入のような一時的な収入については、扶養判定に含めない取り扱いをしていることがほとんどです。
ただし、実際の取り扱いは加入している健康保険組合などによって異なります。
そのため、扶養に入っている方が相続不動産を売却する場合には、念のため勤務先や健康保険組合などに確認しておくと安心です。
一方で税金上の扶養には注意が必要です。
税金上の扶養はその年の合計所得金額などを基準に判定されます。
相続した不動産を売却して大きな譲渡所得が発生すると、その年の合計所得金額が増え、配偶者控除や扶養控除の対象から外れる可能性があります。
たとえば、親を扶養控除の対象にしている場合、その親が相続した不動産を売却して譲渡所得が発生すると、その年は扶養控除を受けられなくなることがあります。
「扶養」を一括りに考えるのではなく、社会保険上の扶養と税金上の扶養を分けて確認することが大切です。
相続した不動産の売却では、売却した本人の税金や社会保険料だけでなく、扶養している家族側の税金にも影響することがあります。
特に親を扶養控除の対象にしている場合や、配偶者控除・配偶者特別控除を受けている場合には、不動産の売却による譲渡所得が扶養の判定に影響しないか確認しておきましょう。
保険料が上がるのは「売却の翌年」だけ

国民健康保険や後期高齢者医療保険の保険料が上がると聞いて、「これから先、ずっと高い保険料を払い続けないといけないの?」と不安になった方もいるのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、不動産の売却で保険料が上がるのは、原則として売却した翌年度の1年間だけです。
翌々年には、原則として元の保険料水準に戻ります。
なぜなら、国民健康保険料などは「前年1月~12月の所得」をもとに毎年計算されるためです。
そのため、高い保険料がずっと続くわけではありません。

保険料はどのくらい上がるかは自治体によって異なる

「相続した不動産を売却すると国民健康保険料や後期高齢者医療保険料はどのくらい上がりますか?」と質問を受けることがあります。
しかし、一律に「○○万円上がる」と言うことはできません。
国民健康保険料は、市区町村ごとに保険料や計算方法が異なるほか、世帯の所得や加入者数なども考慮して計算されます。
そのため、同じ譲渡所得が発生した場合でも、保険料の増加額はお住いの自治体や世帯の状況によって異なります。
また、後期高齢者医療保険料についても、都道府県ごとに保険料率が定められており、所得に応じて保険料が決まります。
そのため、譲渡所得の金額が同じであっても、お住いの都道府県や所得状況によって保険料への影響は異なります。
このように、相続した不動産の売却によって社会保険料がどの程度増えるかは、それぞれの加入制度や所得状況によって変わります。
保険料への影響が気になる方は、お住いの自治体の保険料シミュレーション等を利用するほか、売却前に税理士などの専門家へ相談し、譲渡所得や社会保険料まで含めて試算しておくと安心です。
売却代金ではなく「譲渡所得」がポイント

社会保険料への影響を考える際、多くの方が誤解しやすいのが売却代金そのものが所得になると思ってしまう点です。
たとえば、相続した土地を3,000万円で売却した場合、「3,000万円の所得が出た」と考えてしまう方がいます。
しかし、実際にはそうではありません。
譲渡所得は、売却代金から取得費や譲渡費用などを差し引いて計算します。
ここで問題になるのが、相続した不動産の取得費です。
相続した不動産については、相続時の評価額をそのまま取得費にできるわけではありません。
原則として、亡くなった方がその不動産を購入したときの購入代金や諸費用をもとに取得費を計算します。
この点は相続した不動産の売却で非常に重要です。
取得費がわからないと譲渡所得が大きくなりやすい

相続した不動産では亡くなった方が何十年も前に購入しているケースがよくあります。
そのため、売買契約書や領収書が見つからず、取得費がわからないことも少なくありません。
取得費がわからない場合には、売却代金の5%相当額を概算取得費として計算することができます。
たとえば、3,000万円で売却した不動産について取得費が分からない場合、概算取得費は150万円(3,000万円×5%)です。
この場合、売却代金3,000万円に対して取得費が150万円しか認められないため、譲渡所得が大きくなりやすくなります。
譲渡所得が大きくなると、所得税・住民税だけでなく、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料などにも影響する可能性があります。
そのため、相続した不動産を売却する際は、まず取得費を確認することが非常に大切です。
売買契約書が見つからなくても、通帳、住宅ローン資料、登記関係書類、当時のパンフレット、領収書などから取得費を合理的に説明できる場合があります。
すぐに「取得費不明だから5%で申告する」と判断するのではなく、できる限り資料を探すことをおすすめします。
3,000万円特別控除を使えば影響が小さくなることもある

相続した不動産の売却では、一定の要件を満たす場合に特例を使えることがあります。
代表的なものが、居住用財産を売却した場合の3,000万円特別控除です。
これはマイホームを売却した場合に、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。
また、相続した空き家を売却した場合にも、いわゆる「空き家の3,000万円特別控除」を検討できることがあります。
これらの特例を使うことで、譲渡所得が大きく減少し、結果として所得税・住民税だけでなく、国民健康保険などへの影響も小さくなる可能性があります。
3,000万円特別控除について詳しくは次の記事で解説しています。


ただし、特例を使っても保険料が上がってしまう場合もあります。
それは、「保険料の軽減制度」を受けている場合です。
保険料の軽減制度とは所得金額が一定の基準以下の場合、保険料のうち均等割額や平等割額が軽減される制度のことです。
保険料の軽減制度を受けている場合には、譲渡所得の特例適用前の金額で均等割額や平等割額が計算されるため、保険料が上がる可能性があります。
共有名義で相続した場合には各相続人ごとに判定する

相続した不動産を兄弟姉妹などで共有にした場合、その不動産を売却したときの譲渡所得は、基本的に各共有者の持分に応じて計算されます。
たとえば、兄弟2人で2分の1ずつ相続した不動産を売却した場合、売却代金、取得費、譲渡費用、譲渡所得もそれぞれ2分の1ずつに分けて考えることになります。
社会保険料への影響も、各相続人の加入している制度ごとに異なります。
兄は会社員で勤務先の健康保険に加入している一方、弟は個人事業主で国民健康保険に加入しているという場合、同じ不動産を売却して同じ利益を得たとしても、社会保険料への影響は異なります。
また、母親が後期高齢者医療制度に加入しており、子どもが会社員である場合も、それぞれ影響は別々に考える必要があります。
相続した不動産の売却では、誰の名義で売却するかによって、税金だけではなく社会保険料の負担も変わる可能性があります。
遺産分割の段階から、売却後の税金と社会保険料を見据えて検討することが望ましいといえます。
まとめ
相続した不動産を売却した場合、社会保険料が上がるかどうかは、譲渡所得の有無と加入している保険制度によって異なります。
特に注意が必要なのは、国民健康保険に加入している方、後期高齢者医療制度に加入している方です。
これらの制度では、前年の所得をもとに保険料が決まるため、相続した不動産の売却で譲渡所得が発生すると、翌年度の社会保険料が上がる可能性があります。
一方で会社員や公務員など勤務先の健康保険や共済組合に加入している方は、保険料が給与をもとに決まるため、不動産の売却益が直接保険料に反映されることは一般的ではありません。
ただし、会社員や公務員の方の扶養に入っている家族が不動産を売却した場合は、税金上の扶養に影響する可能性があるため注意が必要です。
相続した不動産の売却では、所得税や住民税だけを見て判断すると、翌年度の社会保険料の増加を見落としてしまう可能性があります。
また、相続税だけを考えると有利に見える遺産分割でも、不動産売却後の所得税や住民税、社会保険料まで考慮すると、必ずしも最適とは限りません。
相続した不動産を売却する予定がある場合は、相続税・所得税・住民税・社会保険料を総合的にシミュレーションしたうえで、遺産分割を検討することが大切です。
相続した不動産を売却する予定がある方は、遺産分割前の段階で税理士に相談し、税金と社会保険料を含めた手取り額まで確認しておくことをおすすめします。



