親が住んでいた自宅を相続し、相続後は空き家になったため、売却を検討するという人がいるかと思います。
不動産の売却には通常、譲渡所得税という税金がかかります。
譲渡所得とは簡単に説明しますと、不動産を売った金額と買った時の金額を比較して利益が出ていることを言います。不動産を売却した場合、この利益に対して約20%の譲渡所得税・住民税が発生します。
しかし、「空き家の特例」と呼ばれる制度を利用すると利益から3,000万円を控除することができます。
今回は「空き家の特例」の主な要件や相続時における遺産分割方法・相続税との関係について解説していきます。
〈空き家の特例の主な要件〉
①昭和56年5月31日以前に建築された家屋で、相続の開始直前において被相続人以外に住ん
でいた人がいなかったこと
②相続の時から譲渡の時まで、事業の用、居住の用、貸付の用に供されたことがないこと
③譲渡の時において耐震基準を満たすリフォームをしていること(耐震基準を満たしていない
場合、当該家屋を取り壊した後で土地を譲渡すること)
※売買契約に基づき、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震リフォーム又は
取り壊しを行った場合、工事の実施が譲渡後であっても適用対象となる
④家屋又は土地の譲渡の対価の額との合計額が1億円を超えないこと
⑤譲渡が、相続の開始があった日以後、3年を経過する日の属する年の12月31日までに行わ
れたものであること
〈相続税・譲渡所得税に留意した遺産分割方法の検討〉
「空き家の特例」の対象となる可能性のある不動産を相続した場合には、相続税及び譲渡所得税に留意して遺産分割方法を検討する必要があります。
特に相続税の小規模宅地等の特例(家なき子の特例)に該当する相続人がいる場合には注意が必要です。
家なき子の特例とは亡くなった人が住んでいた自宅(同居している配偶者や相続人がいない自宅)を借家暮らしの相続人が相続した場合に、その自宅として使っていた土地の評価額を8割引きにする特例です。
この家なき子の特例を受け相続税の負担を少なくすることのみを考えて遺産分割を行うと損する場合があります。
では実際に具体例を使って検討していきます。
〈具体例〉
【前提条件】
①被相続人 母
②相続人 長男 次男
③相続財産
・自宅土地(330㎡) 4,500万円
・自宅家屋 500万円
・その他の財産 5,000万円
④その他
・母は1人住まいであった
・長男は持ち家に住んでいるが次男は借家暮らしをしている
・相続後に家屋を取り壊して土地を8,000万円で売却予定(譲渡費用は100万円)
《次男が土地と家屋を相続して長男がその他の財産を相続する場合》
(単位:万円)
※譲渡所得税・住民税の計算
{8,000万円-(8,000万円×5%+100万円)}-3,000万円=4,500万円
4,500万円×20.315%≒914万円
《すべての相続財産を法定相続分で相続する場合》
(単位:万円)
※譲渡所得税・住民税の計算
長男 {8,000万円×1/2-(8,000万円×1/2×5%+100万円×1/2)}-3,000万円=750万円
750万円×20.315%≒152万円
次男 {8,000万円×1/2-(8,000万円×1/2×5%+100万円×1/2)}-3,000万円=750万円
750万円×20.315%≒152万円
上記2つのケースでは税額合計に355万円の差が出ています。相続税を減少させることのみを考えるならば土地と家屋を次男が相続して家なき子の特例を最大限活用すればよいですが、その先の売却時における譲渡所得税・住民税まで考慮すると土地と家屋は長男、次男が2分の1ずつ相続したほうが良いことになります。
空き家の特例は要件を満たせば長男、次男それぞれが譲渡所得から3,000万円を控除することができるため、次男1人が土地と家屋を相続するよりも譲渡所得税・住民税を減少させることができます。
※共有で相続した場合で空き家の特例の適用対象者が3人以上いるときは特別控除額は1人あたり2,000万円に引き下げられます。
〈まとめ〉
上記の具体例のように、相続税の有利不利のみで遺産分割を検討するのではなく、譲渡を予定している不動産がある場合は譲渡所得税の負担まで考慮して遺産分割を行うことが重要となります。