賃貸アパートの贈与は要注意!負担付贈与の課税関係を税理士が解説

親が所有する賃貸アパートを子へ引き継ぐ方法として、「生前贈与」を検討する方は多くいます。

しかし、賃貸アパートにはローンや敷金の返還義務など「負担」が付いていることがほとんどで、贈与すると「負担付贈与」として特殊な課税が行われます。

場合によっては贈与税のみならず、譲渡所得税まで発生するため、慎重に判断をしないと思わぬ税負担につながることがあります。

この記事では、賃貸アパートの贈与におけるメリットやデメリット、負担付贈与の課税関係をわかりやすく解説します。

この記事の執筆者

ハイフィールド税理士法人 仙台事務所代表
東北税理士会 仙台北支部所属
税理士 高橋 祥太

これまで多数の相続税申告に携わってきた経験をもとに、お客様のお悩みに寄り添って対応いたします。
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目次

賃貸アパートを贈与するメリット

(1)現金を贈与するよりも評価額を抑えられる

賃貸アパートを贈与する最大のメリットの1つは、現金を贈与する場合と比べて、贈与税の計算における評価額を低く抑えられる点です。

現金を贈与した場合は、贈与した金額そのものがそのまま贈与税の課税対象になります。

たとえば3,000万円を贈与すれば、3,000万円が評価額です。

一方、賃貸アパートを贈与する場合は、時価ではなく「固定資産税評価額」を基に評価します。

固定資産税評価額は、一般的に時価(建築費)の5割~7割程度とされており、すでにこの段階で評価額が下がります。

さらに、賃貸アパートは入居者に貸している不動産であるため、借家権割合30%を控除することができます。

これにより、評価額はさらに圧縮されます。

例えば、現金3,000万円と時価3,000万円(固定資産税評価額1,500万円)の賃貸アパートの贈与をした場合の贈与税は次の通りです。

▼現金を贈与した場合

(3,000万円-110万円)×45%-265万円=1,035.5万円(贈与税)

▼賃貸アパートを贈与した場合

1,500万円×(1-30%)=1,050万円(賃貸アパートの評価額)

(1,050万円-110万円)×30%-90万円=192万円(贈与税)

このように、同じ3,000万円相当の財産でも、現金と賃貸アパートでは贈与税に大きな差が生じます。

評価額を抑えられる分、現金よりも賃貸アパートのほうが、贈与税の負担を軽くできる可能性が高い点が大きなメリットと言えるでしょう。

(2)賃料収入を子へ移すことで相続財産の増加を防げる

賃貸アパートを子へ贈与すると、贈与後に発生する賃料収入はすべて子のものになります。

そのため、親の財産として新たに蓄積されることはありません。

一方で、親が賃貸アパートを所有し続けた場合、毎年得られる賃料収入は預貯金などの形で親の財産として積み上がっていきます。

その結果、相続時には相続財産が増え、将来の相続税負担が大きくなる可能性があります。

賃貸アパートを生前に子へ贈与しておけば、その後の賃料収入による財産の増加を抑えることができるため、相続財産の総額をコントロールしやすくなります。

このように、賃貸アパートの贈与は将来の相続対策として、相続財産の増加を防ぐ効果が期待できる点がメリットと言えるでしょう。

(3)賃料収入を子へ移すことで所得を分散できる

賃貸アパートを子へ贈与すると、家賃収入は子の所得として計上されるようになります。

その結果、親の所得を減らしつつ、子へ所得を分散できる点は生前贈与のメリットの1つです。

特に、親が高所得者の場合、賃料収入が親に集中していると、

・所得税

・住民税

・国民健康保険料

などの負担が重くなりがちです。

このようなケースでは、賃貸アパートを贈与して賃料収入を子へ移すことで、親の課税所得が下がり、結果として税金や社会保険料の負担が軽くなることがあります。

一方、子の所得水準によっては家族全体で見たときの税負担が抑えられる場合もあります。

このように、賃貸アパートの贈与は、単に財産を移すだけでなく、所得構造を見直す手段として活用できる点もメリットと言えるでしょう。

賃貸アパートの贈与で起きやすいデメリット

(1)土地の評価額が高くなることがある

賃貸アパートを贈与する場合、土地の評価額がかえって高くなってしまうケースがあります。

通常、賃貸アパートの敷地は「貸家建付地」として評価され、自用地(自分で使っている土地)よりも評価額が低くなります。

これは建物を第三者に貸していることで、土地の利用に制限があると考えられるためです。

入居者がいる賃貸アパートの建物を、親から子へ生前贈与し、土地については子が親から無償で借り続ける場合、原則としてその土地は貸家建付地として評価を引き継ぐことができます。

ただし、貸家建付地としての評価が認められるためには、贈与前後で入居者が変わらないことが前提条件となっています。

そのため、贈与後に入居者が退去し、新たな入居者に入れ替わった場合には、貸家建付地としての評価ではなく自用地として評価されてしまいます。

この場合、土地の相続税評価額が大きく上昇する可能性があります。

賃貸アパートの贈与を行うと土地の評価が不利になるリスクがある点には注意が必要です。

(2)小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性がある

賃貸アパートの土地は、「貸付事業用宅地等」として小規模宅地等の特例の対象になります。

この特例を使えば、相続時に200㎡まで土地の評価額を50%減額でき、相続税を大きく抑えることが可能です。

しかし、賃貸アパートを親から子へ生前贈与した場合には注意が必要です。

贈与により、

建物:子名義

土地:親名義

という状態になると、親が所有する土地を子に無償で貸している形になります。

この場合、親は土地を使って賃貸事業を行っているとはいえず、「貸付事業用宅地等」に該当しなくなる可能性があります。

その結果、相続時に小規模宅地等の特例が適用できなくなるリスクが生じます。

さらに、小規模宅地等の特例には

「相続開始から申告期限まで、貸付事業を継続していること」

という重要な要件があります。

たとえ生前に子が親へ地代を支払っていたとしても、相続後は土地が子名義になるため、子が自分自身に地代を支払うことはできません。

この場合、貸付事業を継続しているとは認められず、特例の要件を満たさなくなってしまいます。

このように、賃貸アパートの贈与は、将来の相続時に有利な特例を失うおそれがあるため、慎重な検討が必要です。

(3)不動産取得税と登録免許税の負担が相続より大きくなる

賃貸アパートを生前贈与する場合、相続と比べて税金や諸費用の負担が大きくなる点もデメリットの1つです。

まず、不動産取得税について見てみましょう。

不動産取得税は相続によって不動産を取得した場合は非課税ですが、贈与の場合には課税されます。

税率は固定資産税評価額の3%です。

次に登録免許税です。

所有権移転登記にかかる登記免許税は、

相続の場合:固定資産税評価額の0.4%

贈与の場合:固定資産税評価額の2%

と、贈与のほうが大幅に高い税率が適用されます。

このように同じ不動産を引き継ぐ場合でも、相続と贈与では税負担に大きな差が生じます。

さらに贈与を行う際には、

所有権移転登記の手続きや贈与税の申告が必要になり、司法書士や税理士などの専門家に依頼すれば、その分の報酬や手数料も発生します。

このような諸費用まで含めて考えると、賃貸アパートの贈与はトータルコストが高くなりやすい点も、見落とせないデメリットと言えるでしょう。

ローンや敷金がある賃貸アパートの贈与は「負担付贈与」に該当する

(1)負担付贈与とは

負担付贈与とは、財産をもらう人(受贈者)が一定の債務を引き継ぐことを条件として行われる贈与のことをいいます。

賃貸アパートの贈与では、例えば、

アパートに関連するローン(借入金)を子が引き継いで返済する

といったケースが典型的な負担付贈与に該当します。

また、ローンがない賃貸アパートであっても、負担付贈与に該当することがあります。

それは、入居者に対する敷金がある場合です。

敷金は将来退去時に返還すべき性質のものであり、入居者に対する債務と考えられます。

この敷金を引き継ぐ形で賃貸アパートを贈与すると、知らないうちに負担付贈与に該当していたということも起こり得ます。

では次に、負担付贈与に該当した場合、どのような税金がかかるのかを見て行きましょう。

(2)負担付贈与の課税関係

①受贈者(もらう側)の課税関係

負担付贈与を受けた場合、次の金額が贈与税の対象になります。

贈与財産の評価額-負担額

ここで重要なのが、不動産の評価方法です。

負担付贈与に該当する場合、不動産の評価は路線価や固定資産税評価額ではなく「贈与時の通常の取引価額(時価)を用いることになります。

一般的に、通常の取引価額(時価)は相続税や贈与税の計算で用いる路線価や固定資産税評価額よりも高くなる傾向があります。

そのため、負担付贈与に該当すると贈与税の負担が大幅に増える可能性があります。

負担付贈与に該当する場合と該当しない場合の贈与税について事例を使って計算してみます。

賃貸アパートの通常の取引価額:2,000万円

賃貸アパートの固定資産税評価額:1,400万円

賃貸アパートの相続税評価額:1,400万円×(1-借家家割合30%)=980万円

敷金:100万円

贈与税の税率:特例税率

▼負担付贈与に該当する場合

(2,000万円-100万円-110万円)×45%-265万円=540.5万円(贈与税)

▼負担贈与に該当しない場合

(980万円-110万円)×30%-90万円=171万円(贈与税)

このように、負担付贈与に該当すると時価ベースで課税されるため、贈与税の負担が大きくなりやすいと言えます。

②贈与者(あげる側)の課税関係

負担付贈与に該当する場合、税金がかかるのは受贈者だけではありません。

贈与者にも税負担が発生する場合があります。

特に注意が必要なのはローンを引き継がせて賃貸アパートを贈与するケースです。

この場合、贈与者は

ローンの返済義務から解放されるという経済的利益を得た

と考えられます。

そのため、税務上は「ローンの残債の金額で不動産を売却した」とみなされ、譲渡所得税が課税される可能性があります。

譲渡所得税について事例を使って計算してみます。

ローンの残債の金額:1,000万円

賃貸アパートの取得費:500万円

所有期間:5年超

▼譲渡所得税と住民税の計算

譲渡所得:1,000万円-500万円=500万円

譲渡所得税:500万円×15.315%≒76.5万円

住民税:500万円×5%=25万円

このように、ローンの引継ぎを伴う贈与では、贈与税に加えて、譲渡所得税・住民税まで発生する可能性があるため、慎重な判断が必要です。

譲渡所得について詳しくは次の記事で解説しています。

賃貸アパートの贈与が負担付贈与にならないようにする方法

ここまでの説明を読んで、

「ローンは完済しているが、敷金が残っている賃貸アパートを贈与したい」

と考える方も多いのではないでしょうか。

このような場合、何も対策をしないと、敷金という債務を子が引き継ぐことになり、負担付贈与に該当してしまいます。

(1)敷金相当額の現金も一緒に贈与する

負担付贈与を回避するためには、

敷金相当額の現金を、賃貸アパートとあわせて贈与する方法がおすすめです。

あらかじめ敷金分の現金を子へ渡しておけば、

将来、入居者へ敷金を返還する際も、その資金を子が自己負担する必要はありません。

その結果、受贈者に実質的な負担は生じないため、負担付贈与には該当しなくなります。

(2)贈与契約書への記載も重要

この方法を取る場合は、贈与契約書に明確に記載しておくことが大切です。

たとえば、次のような条項を盛り込むとよいでしょう。

贈与者は敷金相当額の現金○○円を受贈者に引き渡すものとし、受贈者はこれを承諾する

このように書面で残しておくことで、

賃貸アパートの贈与を「通常の贈与」として扱うことができ、負担付贈与と判断されるリスクを抑えることができます。

賃貸アパートの贈与では、ローンだけでなく敷金の扱いも重要なポイントです。

事前にしっかりと対策を講じることで、想定外の税負担を防ぐことができます。

参考:賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係|国税庁

まとめ

賃貸アパートの贈与は、税務上の正しい知識がないまま進めると大きな失敗につながることがあります。

負担付贈与の課税関係を正しく理解し、将来の相続のことも踏まえて判断することが重要です。

少しでも不安がある場合は、実行する前に専門家へ相談し、発生する税金を事前に把握しておくことをおすすめします。

この記事の執筆者

東北税理士会 仙台北支部所属
ハイフィールド税理士法人仙台事務所代表
税理士 高橋 祥太

大学在学中に相続税に強い税理士になることを決意。
その後8年をかけて税理士試験に官報合格。
これまで数多くの相続税申告に携わりました。
お客様に依頼して良かったと思われるように日々、研鑽に励んでいます。

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