遺言の無効が主張されている場合の相続税申告について解説

父は長男である私に全財産を相続させるという遺言書を残していました。

しかし、弟が遺言は無効である旨を主張してきています。

このような場合、相続税申告はどのように行えば良いのでしょうか?

「親が残した遺言書について他の相続人が無効を主張してきて困っている」

「遺産分割で揉めないためにせっかく親が残した遺言書なのに・・・」

財産を相続する人の中にはこのような状況の人もいるのではないでしょうか。

しかし、そんな状況でも相続税の申告と納付は相続から10か月以内に行う必要があります。

遺言書の無効が主張されている場合は、遺言書の通りに相続税申告を行うのか、それとも、未分割として法定相続分で相続税申告を行うのか悩まれるかと思います。

本記事ではそのような悩みを解決するため、他の相続人に遺言の無効が主張されている場合の相続税申告について解説していきます。

ぜひ、参考にしてみてください。

目次

遺言が無効になるケースとは

まず初めに遺言が無効になるケースについて解説します。

(1)自筆証書遺言で形式要件を満たしていないケース

民法が定める形式要件を満たしていない遺言は無効です。

特に自筆証書遺言の場合は形式要件を満たしておらず無効になるケースが多々あります。

自筆証書遺言の形式要件は次の通りです。

・遺言者が全文を自筆する

・作成の日付を正確に自筆する

・名前を自署する

・名前の後に押印する

・訂正する際も決めれた方法で訂正する

上記の形式要件を満たしていない自筆証書遺言は無効になります。

なお、公正証書遺言の場合は公証人が作成するため、形式要件を満たさないということは基本的にはありません。

(2)認知症などによって遺言能力がない状態で作成されたケース

認知症などによって遺言能力がない状態で作成された遺言は無効になります。

ただし、認知症といっても症状は人によって異なるため、「認知症=遺言能力がない」というわけではありません。

遺言能力があったかどうかは、遺言者の年齢や認知症の程度、遺言書を書いた経緯、相続人との関係性、遺言書の内容などから総合的に判断されることになります。

その結果、遺言能力がなかったと判断された場合、遺言は無効になります。

(3)その他遺言が無効になるケース

以下のようなケースにおいても遺言が無効になることがあります。

・遺言書の内容が不明確な場合

・内容が公序良俗に反している場合

・詐欺や脅迫などにより遺言書が作成された場合

・遺言書が捏造された場合

遺言書が形式要件を満たす場合は遺言書の内容通りに相続税申告を行う

遺言が無効になるケースについてはわかりました。

では、遺言の無効が主張されている場合の相続税申告はどのように行うのでしょうか?

遺言書が形式要件を満たす場合、まずは遺言書の内容通りに相続税申告を行います。

遺言者の遺言能力など、遺言書の有効性に争いがあったとしても遺言書が形式要件を満たす場合は、遺言書の内容通りに相続税の申告期限までに申告を行います

したがって、遺言が無効である旨の訴訟等を行っていたとしても、判決で遺言の内容が無効であることが確定しない限り、未分割として法定相続分で申告することはできません。

遺言書の有効性に疑義が生じていても形式要件を満たす遺言書の場合は、判決で無効が確定するまでは、遺言書の内容通りに相続税申告を行う

反対に遺言書が形式要件を満たしていない場合は申告期限までに遺産分割協議を行い、協議内容通りに申告をします。

なお、協議が申告期限までに終了しない場合は、未分割として法定相続分で申告することになります。

遺言が無効と確定し、遺産分割が行われた場合の相続税の手続き

遺言が無効と確定した場合はどうなるのでしょうか?

遺言書が形式要件を満たしていたとしても、後日、判決等により無効になってしまうこともあります。

遺言が無効と確定し、遺産分割が行われた場合は遺産分割によって相続税が減る相続人については、確定した日の翌日から4か月以内※に更正の請求を行うことで、相続税を還付してもらうことができます。

※場合によっては2か月以内に行う必要があります。

反対に相続税が増える相続人や新たに相続税を納付することになる相続人は、修正申告書や期限後申告書を提出することになります。

更正の請求の期限はあっという間のため注意が必要です。

遺言が有効と確定し、遺留分侵害額請求をされた場合の相続税の手続き

申告期限後に遺言書が有効と確定し、遺留分侵害額請求をされた場合はどうなるのでしょうか?

遺言が有効と確定した場合、遺言の無効を主張してきた他の相続人は、次に遺留分侵害額請求をしてくることが考えられます。

遺留分侵害額請求に基づき、支払う金額が確定した場合は、確定した日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことで相続税を還付してもらうことができます。

おわりに

本記事では他の相続人に遺言の無効が主張されている場合の相続税申告について解説しました。

遺言の無効が主張されていたとしても遺言書が形式要件を満たす場合は原則として遺言書の通りに申告を行います。

このとき、未分割と考えて遺言書の内容よりも少ない取得割合の法定相続分で申告をしてしまうと延滞税や過少申告加算税が課税される可能性があります。

相続税の申告が必要な場合で他の相続人から遺言の無効を主張されている人はぜひ一度ご相談下さい。

この記事の執筆者

東北税理士会 仙台北支部所属
ハイフィールド税理士法人仙台事務所代表
税理士 高橋 祥太

大学在学中に相続税に強い税理士になることを決意。
その後8年をかけて税理士試験に官報合格。
これまで数多くの相続税申告に携わりました。
お客様に依頼して良かったと思われるように日々、研鑽に励んでいます。

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