小規模宅地等の特例は亡くなった人が自宅として使っていた土地を配偶者か同居親族が相続する場合にはその土地の評価額を8割引きにしてくれる特例です。
 しかし、亡くなった人に配偶者も同居している相続人もいない場合には一定の要件を満たす別居親族が相続した場合でも特例を適用できます。これを小規模宅地等の特例のうち「家なき子の特例」と呼びます。
 小規模宅地等の特例は本来、配偶者か同居親族が土地を相続した場合に使えるものです。そのため、親と同居してした子が転勤で社宅で暮らすことになり、その間に相続が発生した場合、その子は親と同居していないため小規模宅地等の特例が使えないということが起きてしまいます。このような人を救済するために「家なき子の特例」は設けられています。
 今回は「家なき子の特例」について徹底的に解説していきます。

■目次

(1)要件
 ①亡くなった人に配偶者も同居相続人もいない
 ②相続開始前3年以内に自身や親族の持ち家に住んでいない
 ③相続開始時に住んでいる家屋を過去に一度も所有したことがない
 ④相続した土地を相続税の申告期限まで所有している
 ⑤相続税の申告書を提出する
(2)平成30年度改正
 ①改正前の要件
 ②改正で追加された要件
(3)よくある質問
 ①亡くなった人が孫と同居していた場合
 ②相続税の申告期限までに実家を取り壊した場合
 ③実家を他人に賃貸した場合
 ④生前に空き家になった場合
(4)添付書類

(1)要件

①亡くなった人に配偶者も同居相続人もいない
 亡くなった人に配偶者又は同居相続人のいずれかがいる場合は家なき子の特例は使えません。配偶者がいないということは基本的には2次相続の時にしか使えないということになります。

②相続開始前3年以内に自身や親族の持ち家に住んでいない
 相続開始前3年以内に次の家に住んでいないことが要件となります。
 イ 自身の持ち家
 ロ 自身の配偶者の持ち家
 ハ 3親等内の親族の持ち家※
 二 自身と特別の関係がある法人が所有する家屋※
  ※平成30年度改正で追加された要件です。詳細は下記(2)平成30年度改正で解説してい
  ます。

 ③相続開始時に住んでいる家屋を過去に一度も所有したことがない※
  ※平成30年度改正で追加された要件です。詳細は下記(2)平成30年度改正で解説してい
  ます。

 ④相続した土地を相続税の申告期限まで所有している
  相続税の申告期限まで土地を所有している必要があります。申告期限前に売却をしてしま
 うと適用できなくなります。なお、転勤でたまたま同居していなかった人を救済する特例の
 ため、申告期限までにその土地に住む必要はありません。

 ⑤相続税の申告書を提出する
  小規模宅地等の特例は相続税の申告書を提出した場合に限り適用されます。特例を使って
 計算した相続税が0円になったとしても必ず申告書を提出する必要があります。

(2)平成30年度改正

①改正前の要件
 イ 土地の取得者は相続開始前3年間持ち家(配偶者の持ち家を含む)がないこと

 ロ 亡くなった人に配偶者も同居相続人もいないこと

 ハ 相続税の申告期限まで土地を所有すること

 平成30年度改正以前は家なき子の特例は要件が緩やかで自身と配偶者に持ち家がなければ適用できたため、祖父母が孫に自宅を遺贈すれば家なき子の特例を受けられました。また、持ち家がある場合は相続前に子や自身が経営する法人に贈与や売却をすれば、引き続き住み続けても家なき子の特例を受けられました。このように本来の家なき子の特例の趣旨とは異なる節税が多く行われたため、改正によって次の要件が加えられました。

②改正で追加された要件
 イ 相続開始前3年以内に3親等内の親族・自身と特別の関係がある法人の持ち家に住んでい
  ない

 ロ 相続開始時に住んでいる家屋を過去に一度も所有したことがない

 上記の要件が追加されたため、次のようなケースの節税が封じ込められました。

 <ケース1>
  私は自宅に1人暮らしをしています。子は持ち家があるためこが自宅を相続しても家なき子
 の特例が使えません。そこで子と同居している孫に自宅を遺贈して家なき子の特例を適用し
 ようと考えています。
 →改正前は家なき子の特例が適用できましたが、改正後はできなくなりました。
  孫は自身の親(亡くなった人から見て子)の持ち家に住んでいるため上記②イの要件を満たせ
 ません。

 <ケース2>
  相続人である私は持ち家があります。現在のままでは家なき子の特例が使えません。そこ
 で自宅を自身が経営している法人に売却する予定です。そうすれば持ち家ではなくなるため
 そのまま社宅として住み続けても家なき子の特例が使えるものと考えています。
 →改正前は家なき子の特例が適用できましたが、改正後はできなくなりました。
  自身と特別の関係がある法人が所有する家屋に相続時において住んでおり、過去にその家
 屋を所有していたこともあることから上記②イ、ロのいずれの要件も満たせません。

(3)よくある質問

 ①亡くなった人が孫と同居していた場合

  Q 亡くなった父は孫(私の子)と同居していました。私は現在、社宅に住んでいます。
    この場合、私は家なき子の特例を受けられますか?

  A 亡くなった人に配偶者か同居相続人がいる場合には家なき子の特例は受けられませんが
   ご質問のケースにおいてお孫さんは相続人には該当しません。
    したがって、家なき子の特例を受けられます。

  ②相続税の申告期限までに実家を取り壊した場合

   Q 申告期限前に実家を取り壊してしまいました。家なき子の特例は受けられますか?

   A 土地を申告期限まで所有するという要件はありますが、建物の所有についての要件は
    ありません。したがって、申告期限前に実家を取り壊したとしても家なき子の特例を
    受けられます。

  ③実家を他人に賃貸した場合

   Q 父の相続後、空き家になった実家を他人に賃貸しました。家なき子の特例は受けら
    れますか?

   A 相続税の申告期限までに土地を所有していれば賃貸しても家なき子の特例を受けられ
    ます。
     ただし、譲渡所得の空き家の特例を受けられなくなりますので注意が必要です。

  ④生前に空家になった場合

   Q 私と父は実家で同居していましたが、私は転勤で社宅住まいになりました。その
    後、父も転勤となり実家は空き家になりました。その状況で父の相続が発生しまし
    た。私は家なき子の特例を受けられますか?

   A 相続時に実家は単なる空き家の状態のため家なき子の特例は受けられません。
     ただし、父が実家を離れた原因が要介護認定を受けての老人ホーム入所であ
    る場合は別途、特例がありますので家なき子の特例を受けられます。

(4)添付書類

 小規模宅地等の特例のうち家なき子の特例を適用する場合には次の書類を相続税の申告書に添付する必要があります。

 ①マイナンバーカードのの写し(表面と裏面)
  ※マイナンバーカードのがない場合は通知カードの写し及び免許証の写し

 ②被相続人のすべての相続人を明らかにする戸籍の謄本又は法定相続情報一覧図

 ③遺産分割協議書の写し又は遺言書の写し

 ④相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)

 ⑤相続開始前3年以内に住んでいた家屋が、自身や自身の配偶者、3親等内の親族や自身と特
 別の関係がある法人が所有する家屋以外の家屋である旨を証する書類(賃貸借契約書やその家
 置の登記事項証明書)

 ⑥相続開始の時において自身が住んでいる家屋を相続開始前のいずれの時においても所有し
 ていたことがないことを証する書類(相続開始の時に住んでいる家屋の登記事項証明書)

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