〈認知症になるとできなくなること〉

  認知症によって本人の判断能力が不十分になった場合、本人は不動産の売却ができなくな  
 ります。また、家族が本人に代わって売却することもできません。不動産の売却以外にも、
 預金の引き出しや解約、契約行為、相続税対策、遺言書の作成などあらゆることが制限され
 てしまいます。
  日本では65歳以上の人のうち5人に1人が認知症患者とも言われています。
  親が認知症になり、もしも介護などが必要になった場合、老人ホームの入居費用や介護費
 用を捻出するために実家を売却したい。しかし、親が既に認知症になった後では売却したく
 てもできないということが起こりえます。

 〈任意後見制度〉

  認知症によって本人の判断能力が不十分になったときに備えて、「任意後見制度」を活用
 する方法が考えられます。
  任意後見制度とは、判断能力が十分でない人が不利益を受けないように支援してくれる人 
 をあらかじめ自身で決めておく制度のことです。公正証書役場に行き、公正証書を作成する
 必要があります。
  しかし、任意後見制度は本人に代わって生活、治療、療養、介護など身の回りの手続きを
 行うことが目的です。
  つまり、任意後見制度によると不動産の売却などといった財産の処分は原則として行うこ
 とができません。

 〈家族信託とは〉

  家族信託は認知症への対策として現在、非常に注目を集めています。
  家族信託とは財産の管理を信頼できる家族に任せ、そこから生じる利益(家賃収入や売却代
 金)は自身が受け取るというものです。
  不動産には所有権という権利があり家族信託を設定することで受益権(財産からの収益を受
 ける権利)と財産管理権(財産の管理運用処分をすることができる権利)の二つに分けることが
 できます。
  この二つの権利のうち財産管理権を家族に渡しておけば、将来、自身が認知症になったと
 しても管理などは家族に任せ、家賃収入や売却代金については自身が受け取れます。
  家族信託契約によって財産を信託しておけば本人が認知症になっても信託された財産につ
 いては家族が代わりに運用したり売却したりすることが可能になります。

 〈家族信託の税金について〉

  家族信託を設定した際に財産管理権を家族に渡すことになるため、贈与税が発生するので
 はないかと思う人がいるかもしれません。
  結論として受益権を渡さない限り贈与税はかかりません。また、登記によって名義が家族
 に移りますが、不動産取得税もかかりません。この点が生前贈与とは異なります。
  なお、登録免許税は発生します。さらに司法書士などへ信託の設定を依頼した場合は、司
 法書士報酬がかかります。
  ※登録免許税は生前贈与の場合と比べて5分の1の負担で済みます。

  家族信託を設定しておけば親が認知症になったとしても不動産の売却や組み替えといった
 相続対策や、介護費用等の捻出も可能になります。
  気になる人は司法書士や税理士といった専門家にご相談することをおすすめします。